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ロゼ色物語

九頭竜川サクラマス釣りをメインに、フライフィッシングショップロゼ店主の物語
<< 4月16日川写真 | main | サクラマス釣果 >>
エッセイ

 先日今年初釣行されたお客様から、こんなエッセイが届きましたSMILY

 

「2時間と20年」             野津昌生

 

東京からの九頭竜川遠征3日目。

今日も早朝4時半に起床。

すでにすき間の目立つフライボックスをベストに押し込み、

ひんやり湿ったウェーダーに筋肉痛の足を突っ込みます。

今日こそ釣らねば。

この2日間の様子から、絶対にあそこだと確信して、

目当てのポイントに向かうと、既に先行者のルアーマンが二人も。

しかし、三番目でも可能性はあると、少し間を空けて釣りくだります。

 

ところが、先頭のルアーマンがヒラキの少し手前で

全く動かなくなってしまいました。

ぎこちない動作で、ルアー交換にもずいぶん時間がかかり、

遠目には腰の曲がった老人のようでした。

同じポイントで粘り、いつまでも下る気配がありません。

自分の後ろにもルアーマンが続いているので、

こちらは瀬頭の冷たい水の中に立ちこんだまま、

2時間も待ちましたが…。

結局、貴重な時間を無駄にしてポイントを移動。

 

精神的にペースを乱すと、その日は何をやっても上手くいきません。

行く先々で、こんなジジイがいてさぁ〜、まいったよ…。

と知り合いのフライマンに愚痴ることで憂さを晴らしていました。

 

すると、夕方の別のポイントで、再びそのルアーマンに遭遇。

相変わらず同じ場所を行ったり来たりしていて、

困ったなぁ…と思いながら、友人のフライマンと

「何だあのでかいルアー、シーバス用じゃないか。」とか、

「見てよあのリーリング、前のめりで手が固まってるよ、格好悪〜。」

などと笑っていると、こちらに気づいたのか、

しばらくして川から上がってきました。

 

友人に先に釣り下ってもらうことにして、

釣りくだりのルールを知らないんだろうなと思い、

そのルアーマンに話しかけてみました。

ウェーダーもベストも、ロッドもリールも、すべてが新品です。

もっとお爺さんかと思っていましたが、年齢は60代といったところ。

 

「どうですか?釣れましたか?」

すると、意外にも

「はい、ええ、釣れました!」

との返事が返ってきました。

 

あら、まぁ、釣れちゃったの…。ビギナーズラックかな。

場所を聞くと、やはり朝のあのポイントです。

携帯で撮った写真を見せてもらうと、

大型の雄の見事なサクラマス。

時間は、私が場所移動した直後でした。

 

悔しさを噛みころし、いちおう社交辞令のつもりで、

「すごいなー。お上手なんですね。」と言うと、

彼は首を左右に振って、

「初めてサクラマスを釣りました。」

 

彼はさらに話を続けます。

「実は20年前に九頭竜川に来て、その時はバラしてしまったんです。

その後、仕事が忙しくなり、両親の介護もあって、

九頭竜川に来られなくなりました。」

 

「この春とうとう仕事を退職し、身辺も片付きまして、

ようやく九頭竜川に釣りに来ることができました。

そして今朝、20年前にバラした、まさにその場所で、

サクラマスがライズしたのです。」

 

「これは自分の魚だと思って、申し訳ないけど粘りました。

すると、朝日が川面に差し込むその瞬間に、

サクラマスがヒットしたのです。」

 

私が黙っていると、彼は友人の美しいキャスティングのループを見ながら、

ひとりごとのように呟きました。

「フライフィッシングは格好良いですよね。憧れます。」

私が何気なしに

「では、次はフライフィッシングで挑戦ですね。」と返すと、

「左手が不自由になってしまったので。」と屈託なく笑われました。

 

私は、このルアーマンの執念を嘲笑した自分を恥じました。

 

「今日は、素晴らしい一日だったんですね。心からお祝いします。」

「ありがとう。」

「いいえ、こちらこそ。」

「では、私はこれで上がります。頑張って下さい。」

 

後ろ姿に夕陽の喝采をあびて、

河原の石を一歩ずつ踏みしめながら、

彼は20年前に帰っていきました。


 

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